楡家の人びと

解説で辻邦生が「永遠に終わってほしくないと思う作品」と評していたが、まさにその通りだと思う。様々な人に結末や報いがあったりなかったりするこの良い意味での消化不良感がまた現実感を増幅させていてたまらない。
そして、描かれた「時代」というもの。やはり濃い時代だったんだなあと思わされる。永遠に終わって欲しくない、この楡家にまつわる人々が今後どうなっていくのかを見たい気持ちもあるが、そう思わない部分もある。それは自分が生きてきたこの30年弱が、大して何も思い出せないような時代だからである。思い起こせば、日航ジャンボ墜落とか宮崎勤とかオウムとか神戸大震災とか湾岸戦争とか911テロとかサカキバラとか色々衝撃もあったんだけど、それが浅く広くて、何よりもこの恐るべき消費の速さのためにどんどん薄められてしまっている。何も変らない生活を続ける自分の問題でもあるんだが、月並みな言い方をすれば、全てとの関わりが薄くてしょうがない。こんな中であの群像劇を描かれてもあんなに濃い作品にはならないだろう。だから見たくない。
そう考えると「結局、湾岸戦争まで何もなかったということなんだ」と言い放って安保以降を適当に放り投げる押井に同意せざるを得ない部分もあるのだと思う。